「Island.1」

「光りあう月」

光が散らばる暗闇に、私は浮かんでいた。

月がふたつに分かれてから、もう随分経つ。

周りには小さなクラゲたちが、惑星を無くした衛星のように、ただひらひらと漂っていた。

彼らは少し光っていた。

今まで貯めた月の灯りを、少しづつ放出するように。

そっとひとつを手にとる。彼らは真夏のソーダアイスのように、透明になって溶けていった。

その後には、三つの窪みがある小さな骨だけが残った。

この果てしない影の中で、私とクラゲ達だった。

ここは、世界の端なのだと思った。

誰も気づかない場所。誰も知らない場所。

私は昔のことを思い出していた。

春の強い風に乗せられた、青い夢の匂い。

冬の朝の石油ストーブの匂い。

柔らかな肌の感触。夏の魔物の体温。

もう全部が迷子になっていしまっている。

みんな知らないかもしれない。もう覚えてないかもしれない。

目の奥が熱くなる。

全部が、昔のままじゃいられないなんて。

私が思い出したすべてのことを、誰に証明できるというのだろう。

知っているのは私だけでしょう?

でも、この暗闇の中では、それさえも不確かだった。

私は生きていたい。このどうしようもない世界の中で、息をしていたい。

みんなと。記憶と。夢や希望と。愛するものと。

私は確かにそこにいた。私は確かにそこで、生きていたんだよ。

私の目からあふれる涙は、ぽこぽこと音を立てて、小さなクラゲになった。

私は自分の足も泡になっていることに気づいた。泡の音は巨大な海獣たちの胎盤の中のように、こもった音を立てて、響いた。

その時私は、大きな月を見た。

月はもう手を繋ごうとしいていた。

まるで命の始まりのような鼓動と、互いを許し合うように、歌が聞こえる。

クラゲ達は嬉しそうに跳ね回り、いうかの夏の線香花火のように、弾けるように光った。

もう大丈夫だね。

私の身体はほとんどが泡になっていった。その全てが小さな命となり、粉雪のように舞い上がった。

小さなクラゲ達は新しい命たちと嬉しそうに踊り、月はついにお互いの指に触れた。

私はこの祈りのような光景を知っているような気がした。

私はこれからも、きっと大丈夫な気がした。

いつかまた、ひとつになるまで。

私は今ここで、生きているよ。

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